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Logos 今月の言葉

 201982019年「平和のいのり」コンサートあたり
2.「フィンランデア」のこと。
北欧の国フィンランドはスウェーデンとロシアを隣国としています。
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世紀スウェーデン王がカトリックからルター派に改宗したときその公国であったフィンランドもルター派になりました。ロシアは正教の国です。
19世紀の終わり帝政ロシアのロマノフ2世はロシア基本法をフィンランドに押し付け、軍隊をロシアに統合、ロシア語の強制などフィンランドを無視する政策を取りました。これがかえってフィンランドの愛国主義・民族主義を培養することになりました。1899年フィンランドの新聞社主催の愛国記念劇が開催されジャン・シベリウス(18651957、ちなみに彼は「ジャン」と終生いいました)に作曲を委嘱しました。
1900
年かれはフィンランドの歴史を、民族の始原、そのキリスト教洗礼、独立のための30年戦争、怒り、そして終曲に「フィンランドは目覚める」をつくりました。この歌はフィンランドの民族主義を促す働きをしました。
1905
年日露戦争でバルチック艦隊の壊滅はフィンランド人に独立を一層強く促しました。ロシアはこの歌を禁止しました。1917年ロシア革命によるロシアの混迷の中で、フィンランドは建国の宣言をします。やがてソ連はフィンランドに圧力をかけます。危機感を鋭くしたフィンランドは1940年代侵攻してきたナチス・ドイツと連携します。東から侵攻してきたソ連軍の大軍を「フィンランドの森と湖」に引き込んで善戦しますが(193940「冬戦争」)敗戦、資源の多い国土の1割を割譲せざるを得ませんでした。大戦後は敗戦国として、新生をはかり、いまフィンランドはヨーロッパ連合に加盟、ユーロを導入しています。2017年建国100年を祝して「フィンランデア」を歌いました。「フィンランデア」は静謐なメロディのようですが内には熾烈な自立の精神を蓄えつづける意思を示しているものです。この歌は、いまも価値観を異にする大国と友好関係に命を削っている人々を支えます。世界の中でその隣国との関係が不調和であることは残念ですが珍しくありません。
さて、日本は国際交流基金という機関が毎年世界各地に日本語学習のために教師を派遣しています。フィンランド・ヘルシンキ大学には日本文化を学ぶ学科があります。日本びいきの青年たちがいます。あるとき日本人教師が、戦後日本では隣国との関係を改善する努力をしていかなければならないようにフィンランドもロシアとの関係を改善することは課題でしょうね、と語り掛けますと、一気にクラスの楽しい雰囲気は凍り付きました。今日も青年たちにとっては理不尽な大国のすがたがここ雄に刻まれているのです。
人間は歴史的存在ですから、歴史を担うということは重いことです。しかし過去は変えられないけれど、未来は人間によってこそ、やはり変えられます。知性を錬磨して過去の呪詛から自分を自由にし、新たな可能性のある未来にそなえたいものです。

雨貝行麿